千瀬

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 失敗した。せめて、何通りか話題を用意してから話しかけるべきだった。だが、話しかけた相手も、運がいいのか悪いのか、優衣だった。優衣の場合、何通りか話題を用意していても、結果は同じだったかもしれない。  もし、あの時に優衣とうまく話ができても、親しい仲にはならなかったはずだ。そもそも、優衣のような人といるとき、周りの目が気になって私が耐えられえない。優衣は意外と周りの目なんてつまらないことは気にしないだろうが、千瀬はそうではない。周りの目が気になる。つい、優衣との釣り合いを考えてしまった。  千瀬がクラスの人と普通に話し始めたのは、その年の七月だった。  文化祭で絵の出展があったとき、美術の先生から、文化祭に絵の出展をしてみないか、と声をかけられたのである。千瀬は小さいころから絵を描くことが得意で、小学校の頃は優秀作品に選ばれたほどである。恐らく美術の先生は、授業で何度か千瀬が書いた絵を見て、前々から考えていたのだろう。千瀬は喜んで受けた。  引き受けたものはいいが、何を描いていいのかまるで分らなかった。先生には、テーマは学校に関係するものであるなら何でもいい、と言われていたが、それもまた困った。
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