千瀬

10/75
前へ
/210ページ
次へ
 教室に入った千瀬は目を疑った。千瀬が書いた絵の前に優衣が立っていたのだ。後ろ姿ではなく、横からの姿が見えたため、容易に確認できた。さっきの声は優衣だったようだ。  よく見ると、奥にもう一人いる。橋野奈々である。奈々は優衣と仲が良く、いつも一緒にいる。  「これ、うちのクラスだよね。こんな絵が描けるなんて凄い。誰が誰だかすぐにわかるもん」  奈々が感心したように言った。  「あの」  千瀬は勇気を持って声をかけた。  「あ、西田さん」  二人は千瀬に気付き、千瀬を見た。  「西田さんが描いたんだよね、この絵。凄いよ。なんか、みんなのことをよく見てるなって感じ」  奈々が少し嬉しそうに言った。  「本当ですか?」  表にはあまり出さないが、千瀬は内心、とても嬉しかった。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加