千瀬

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 「これって、ただのイラストじゃなくて、みんなの性格とか、特徴とか、西田さんが観察して、それを反映したうえで絵にしてるんでしょ? 多分、この絵をみたら、クラスの人じゃない人でもその人のことがよくわかるようになっている。例えば、一番右上に描かれている人、あれって桜田さんだよね? 彼女はお金持ちでずる賢い、けれど、いざという時はとっても優しいし頼りがいがある。もし、私が同じように描いても、お金持ちでずる賢いっていう印象しか伝わらないと思う。でも、西田さんが描いた絵からは他にも、優しさと頼りがいがあるということも伝わってくる。桜田さんだけじゃない。みんなそう。ちょっとした頭の飾りや表情、それぞれの配置がものすごく考えられているなっていう風に思った」  「あ、ありがとう」  奈々の感想に、千瀬は思わず泣きそうになった。いままで絵のことについて褒められたことは何度もあるが、ここまで分析してまで褒められたことは初めてである。この子もきっと、絵を出展したのだろう。  「私も絵を出展したんだよ、西田さんの隣にあるやつ」  千瀬は隣の絵に目を向けた。自分の教室の窓から見た景色だった。  「風景画だ」  奈々の絵は、細部にとても気を使っているようだった。グラウンドの土の色や、微妙な凹凸の表現。さらに、グラウンドの横にある通称『別館』と呼ばれている、レンガ造りの建物は特に忠実に描かれている。
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