千瀬

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 レンガの中に一つだけ白い色のレンガが混ざっているのだが、それは注意して見なければ大抵気が付かない。この学校に通っていても、それに気が付いていない人は大勢いるはずである。  奈々の描いた絵の中にも、しっかりとその白いレンガは描かれていた。これも同様に、注意して見なければ気が付かない。  「この微妙にある白いところって、わざと?」  千瀬は一応確認してみた。  「そうだよ。別館のレンガって、よく見たら一個だけ妙に白いレンガがあるんだよね。私もこの絵を描いているときに気が付いたの」  やはり、ここまでの絵を描けるということはかなりの観察力も持っているようだ。  「上手だなあ」  千瀬はこんな絵を描ける奈々へのあこがれが強すぎるあまり、そんなことしか言えなかった。本当はもっと言うべき言葉があるのだが、それを言葉にすることができない。  「ありがとう。でも、西田さんには敵わない。そもそも、風景画以外の発想すら浮かばなかったから」  「そんな」  千瀬は少し心が痛んだ。千瀬の描いた絵は、千瀬自身のアイディアではない。幸恵のアイディアである。最終的に形にしたのは千瀬自身だが、アイディアを褒められると話が変わってくる。今更、考えたのは私じゃないとは言えないが。
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