プロローグ

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 目の前には大きなドアがある。濃い緑色をした、古ぼけたドアだ。  うちの学校では、この場所を別館と呼んでいる。昔は美術部や軽音楽部、茶道部の活動場所として使われていたようだが、美術部は廃部になり、軽音楽部は音楽室へ場所を移し、茶道部は新しく校舎内に新設された和室へ場所を移した。そのため、この別館は使われなくなり、現在は立ち入ることすらできない、いわゆる廃墟となってしまった。  目の前の大きなドアの向こうには、昔美術部が作業部屋として使っていた部屋がある。ある程度の道具が残されているせいで、絵の具が腐った臭いや、原因不明の独特な悪臭がする危険がある。そのため、一応マスクは装着している。  千瀬は金色のドアノブを掴んだ。軍手越しにひんやりと冷たさを感じた。このドアノブを回し、ドアを開けるともう後戻りはできない。この先、一生背負って生きて行かなければならないものができる。  そんなことを考えているうちに、金属バットを持っている手に、自然と力が入った。  行こう。  そう思ってから躊躇はしなかった。  扉を開くと、部屋の真ん中に立っていたスーツ姿の男性の頭を目がけ、思い切りバットを振り下ろした。男性は振り返る間もなく頭を押さえて倒れ込んだ。  しかし、ここで手を休めてはならない。  うずくまっている男性の全身を、無差別に何度もバットで殴った。何発も何発も、男性が動いているのか動いていないのか、それすら確認せずに殴り続けた。
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