プロローグ

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 軍手を取り、携帯電話の時計を見た。時刻は四時をちょうど過ぎたところ。予想よりも大幅に時間を取ってしまった。  マスクを取ると、古ぼけた木や、腐った絵の具の匂いに交じって、ほんのりと血の匂いがした。マスクを取るべきではなかったと千瀬は後悔した。  千瀬は部屋の中を見渡した。客観的にこの部屋を見て、怪しい点は見当たらない。わずかに出た血も、床にもともとあったシミにこの短時間で馴染み、見分けがつかないくらいになっている。きっと、日曜日には誰もシミと血痕の区別がつかないだろう。  千瀬は再度何もないことを確認すると、静かに部屋を出た。その足取りは不思議と軽かった。
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