第1章

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 彼女は食事をするとき、何にでも七味をかける。  彼女のカバンにはいつも七味が入っていて、小学校のときも給食に七味をかけていたことから、あだ名は『七味ちゃん』だった。  いつだったか女子の間でスイーツが流行ったとき、何人かの友達と雑誌を見ながらスイーツを食べに行ったことがある。  そこでも彼女は当然のように七味を使っていた。  集まっていた女子たちは「やっぱり七味ちゃんだね」と笑っていたけど、パフェに七味をかけるなんて、ほとんど気が狂っているとしか思えない。  少なくとも味覚は確実に狂っているだろう。 「ねえ、なんでいつも七味をかけて食べるの?」  あるとき私は尋ねてみた。  そしたら、彼女は笑いながら言った。 「私、普通の味のものが食べられないんだよね。気持ち悪くなっちゃうの」  彼女に嫌悪感をおぼえた瞬間だった。  自分は普通ではないのだと暗にアピールする人間というのはどこにでもいるものだ。 だけど、そんなことをいちいち得意げに話してどうするのだろう。  そういう人には哀れみしか感じない。  自分は他の人間とは違うとアピールすることでしか自己肯定できないのか。  滑稽すぎて気持ち悪い。  自分は普通の人とは違う? 馬鹿じゃないの。  たんにおかしい人じゃないか。
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