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彼女は孤児院で育った人間だった。
特別感を演出したいなら、それをアピールすればいいのに、彼女はそのことについてはいっさい触れなかった。
さすがにそれをアピールの材料に使うことはイジメに繋がりかねないと思ったのだろうか。
彼女はいつも明るく笑っていた。
そのせいか、彼女はみんなに慕われていた。
『七味ちゃん』というあだ名も、悪意をもって囁かれたことはない。
彼女は勝ち組だろう。
「ねえ、ユウちゃん。オートモービルが引き起こすバタフライ・エフェクトを知っている?」
「ふつうに言ってくれない?」
私は中学二年のときに家の事情で転校した。
なぜかそこで私がイジメにあった。
私は勝ち組になれなかった。
「渋滞。こないだね、家族で遊園地に行ったんだけど、帰りに巻き込まれちゃって。五十キロだよ! びっくりしちゃった」
高校で再会した彼女は、これまで以上に楽しそうに笑うようになっていた。
中学のときに養子縁組をして家族ができたのだという。
それでも、食事に七味をかけるのは相変わらずだった。
高校でも彼女のあだ名は『七味ちゃん』だった。
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