第1章

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 私はスプーンを手にしたまま固まった。  目の前に座る『七味ちゃん』は、七味をかけないままパフェを食べていた。  なんだ。  やっぱり不思議ちゃんを演じるための演出だったのか。 「普通の味のものを食べると気分が悪くなるんじゃなかったの」  皮肉をこめて言ってやると、彼女はまた口元だけで笑った。 「うん……。前はね、ずっとそうだったの。昔のこと思い出して、吐き気がして。何も食べられない時期もあったんだけど……。でも、生きるためには食べなきゃいけないでしょ? それで、あるとき気づいたの。味が分からなければ大丈夫だって」  吐き気がするような昔のこととは何なのか。  尋ねようとして、私は口をつぐんだ。  彼女は孤児院にいたことも、その前のことも、これまでいっさい誰にも語ることがなかった。  もしかしてそれは、イジメの対象にされかねないからではなく、別の理由があったからなのだろうか。
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