第1章

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「私、さっき、あそこから飛び下りようとしてたの。ほんとつまらない人間だね、私」  声が喉の奥で潰れそうだった。  彼女はパフェについているウエハースをサクリとかじった。  私たちの間にしばらく沈黙が横たわる。  私はどんどん融けてくる目の前のパフェを眺めていることしかできなかった。 「ユウちゃん、バタフライ・エフェクトのこと、おぼえてる?」  ふいに彼女が口を開いた。 「渋滞のこと?」 「違う違う。本来の意味だよ。どんなに小さな要素でも未来に大きな影響を与える可能性がある以上、確かな未来予測はできないってこと。つまらない人間かどうかなんて、自分が勝手に思い込んで決めてることだよ。ユウちゃんがいるからこそ、この世界の今があるのかもしれないよ。ユウちゃんの見えないところで何かが作用してね」  彼女はそう言うと、スーパーの袋の中をがさがさとかきまわし、七味を取り出した。 「これ、かけてみる?」  どんと、私の前に七味が置かれる。 「いきなり何?」 「新しい味で、新しい世界が広がるかもよ」 「……そうかな」 「そうだよ。私の七味が、ユウちゃんの世界でバタフライ・エフェクトを起こすんだよ」 「なにそれ、ちょっとおかしくない?」  苦笑いしながらも、私はそっと七味を手に取ってみた。       ≪了≫
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