楽しかったとは、「た」と付く時点で過去になる

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 学校で囃し立てられながらも一学期がなんとか無事に終わり、夏休みに入った。 宿題はさっさと終わらせて遊びたい人なので、終わらせてしまっている。 さて、やることがない。 どうしたものか、そう思っているとおもむろに携帯が光り、振動する。 電話か? いったいこんな真昼間に誰だと言うんだ。 「はい」 「春さんですか? 深頭です。 唐突ですが、海に行きませんか?」 「唐突……ではないな。 前に言っていた気がするから」 「覚えていてくれたのですか、それなら話は早いですね。 ぜひ行きましょう。 千里君と高橋さんも誘っています。 二対二なのでダブルデートみたいで面白そうですし」  悪くはない話だが、ダブルデートとは状態だ。 しかも男二人が私に言いよってくる状態をどうにかしなければダブルデートとは言わん。 美咲放置もいいところだ。 だが海……。 迷うな……。 ええいままよ、なるようになるだろう。 「良いぞ、行くか」 「そう言ってくれると思いまして、もう準備はしてあるのです」 「は?」 「大丈夫です、皆さんの水着などはこちらでご用意しているので手ぶらでも問題ないですよ」 「金銭的な面はどうするんだよ」 「当家のプライベートビーチなので問題ありません」  なんだこのブルジョアは、平気でプライベートビーチなどと言うのか。 これは行かねば祟られるレベルかもしれない。 言いすぎた。 とにかく、深頭に言われる通りアパートの下を見ると、リムジンが止まっている。 本当になんだこの金持ちは。 そう思いながらも、最低限の荷物を持って降りていく。 リムジンの前には一人の女性が。 礼をすると礼で返され、ドアを開けてくれた。 「こちらにどうぞ」 「これはどこ行きになるんでしょうか?」 「駅に向かいます。 そこから電車に乗って別荘の方へと」 「電車ですか」 「はい、二男である光がそうしたいとのことなので」  ほう、そういう庶民的な事を体験してみたいということなのだろうか。 車に乗り込むと、中には誰もおらず、一人だけぽつんと座ることになるみたいだ。 ドアが閉まると、リムジンはゆっくり動き出す。 そういえば千里は……、聞く前に教えてくれた。 別の車で行ったらしい。 深頭と一緒に行ったとかそういう話を聞いた。 
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