楽しかったとは、「た」と付く時点で過去になる

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「デザートのつもりなのか?」 「そうとってもらっても構いませんよ?」 「夏と言えばスイカでしょ!」 「美咲さんテンション高いですね」  小さなビニールシートの上に置かれたスイカと目隠しをして棒きれを持って手を高く上げている美咲をよそ眼にシャツと脱ぐ。 いい加減暑い。 パラソルの下ならともかく炎天下のしかも砂浜の上だと反射熱と砂浜からの放射熱と言うのかわからないがそれらが暑くて敵わない。 「ついに春さん水着だけになりましたね。 興奮します」 「するな。 美咲の方がよっぽど魅力的だろう」 「そう? 胸は敵わないけど、嬉しい限りだわ~」 「胸に固執するなよ。 哀れだぞ?」 「くっ」  なぜそこまでこだわるのか、わからないのだが。 これもおそらく無いものねだりの部類なのだろう。 それは置いておいて、面白いのは美咲がさっきのことを言いながら目隠しはきちんとしていることが滑稽でたまらない。 吹き出しそうだ。 だが我慢しておこう。 そうしているうちに美咲が歩き始める。 スイカ割りが始まったようだ。 フラフラ歩いていき、振り下ろした先は砂。 残念、外れた。 「この感触は……外れた! じゃあ次ちーちゃんね」 「はーい」  美咲から目隠しを受け取り、千里は装着する。 棒きれをぶんぶん振り回して感触を確かめるように振る。 意味は無いだろうが。 「行きます……!」  千里が歩き出した。 美咲が指示を出してそれに合わせて歩く千里。 そして振り下ろされた時、 バキャッと音がしてスイカが砕けた。 スイカ割りとしては成功なのだろうが、これ食べれるのだろうか。 いや、そのためのビニールシートなのだろう。 砂はついていないので拾って食べれるな。 「やりました!」 「じゃあ食べるか」 「塩は先ほど持ってきたので御所望の方はおっしゃってください」 「スイカ~!」  皆でスイカの元に走り、それぞれ思った大きさのスイカを持ち食べ始める。 美咲と千里は大きめのかけらを、私と深頭は小さ目のかけらを拾い食べる。 久しぶりにスイカを食べたがまずくはない。 むしろおいしい。 久しぶりというのも相まっておいしく思うのかもしれないな。 結局塩をかける人はいなかった。
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