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「昔の話なんですけどね?」
そういう一言で千里の話は始まる。 元々顔つきが女性よりだったせいで色々あったと続ける。 男女と蔑ませられたことがあったのは当たり前と言わんばかりの言い方だったが、肝心なのはそれではなかったらしく、それは前置きですがと付け足す。
「結局のところお前は何の過去を話そうとしているんだ?」
「簡単に言うと貞操のことですかね」
貞操。 こいつは確かにそう言った。 元々私自身もそういう話は得意ではないので出来れば聞きたくないところではあるが、こいつの真面目な話は滅多に聞けることもないし、聞いておいた方が良いのだろうという判断の元避けることをやめる。
端的に言うと、強姦されたと言う話。 逆強姦と言う話は聞いたことがあるがそうではないらしいらしく、男に犯されたと言うのだ。 聞いたことが無いわけではない、同性愛者の話。 しかしそれとも違うらしく、一時的に欲情した相手に押さえつけられて恐怖で逃げられなかったという内容になる。
愕然とした。 普段明るく振舞う千里にこういう過去があったのか、ただただそう思うことしかできずにいた。
「固まってますけど大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。 問題はない」
「なので、最初は男という性ながら男性恐怖症の部分もあったんですよ。 でも今は光君がそれを無意識のうちに解消してくれているのでは、と思っています。 女性に対しては何もないつもりだったんですが、それでも多少の人間だからという恐怖もあったみたいです」
それは春さんが解消してくれました、と付け足す。 無意識、その言葉が完全に当てはまるようだった。 そういうことは今まで聞いてなかったので、普段通り変態を足蹴にする適当な返ししかしてなかったのにこいつはそれがうれしかったと言うのだ。 やはり変態だと言うのがいつもだが、今日は違う。 真剣に考える。
「だったらよかった。 まあ私のことは気にしないで普段通り接してくれればいいからな」
「春さんならそう言ってくれると思って言ったんですよ? 過去を知ったからって素振りが変わる人じゃないと思ってますし実際そうですから」
随分高く買ってもらっているなと思いながら、千里の話は私のことについて話題が変わっていく。
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