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「思ったんですが、ボクがなんで春さんに言い寄ってるのかって言ったことありましたっけ?」
「確か無いはずだが」
確かと言う言葉を使ったが、完璧にそういうことを聞いた覚えがない。 出会ってすぐの時は普通に友人として接していたはずなのになぜこういうことになってしまったのかと疑問が出てくるが、こいつが今から話すと言うことなのだろう。
千里は顔つきのせいで茶化されることはしばしばあったので、女性と言っても物腰の軽すぎる女性と言うのは好ましくなかったらしい。 その時偶然出会って仲良くなっていくうちに、女性らしからぬ凛としたたたずまい、固すぎず柔らかすぎない物腰、たまに見せる優しいところなどに惚れたらしく、言っていると恥ずかしくなりそうな言葉の羅列が次々に耳に舞い込んできた。
「そういうことだったのか」
「そういうことだったんです」
「それを言ったところで私の思い方が変わったら嫌なのだろう?」
「そうですね。 告白されても今まで通りに接してくれるとうれしいです」
「返事はどうしてほしい?」
「今は良いです。 言いたくなった時に言ってくれたらいいので」
返事をすぐに求めないと言うあたりこいつもがっついてはいないようだ。 しかしだからと言ってそれが返事に影響してくると言うことはあるか無いかで言えば無い。 これからは普段通り接しながら今まで軽視していたこいつの内面をもっと見ていかなければと思う程度だが考えてはいる。
「春さんはさっき物思いにふけっているような風体でしたが、なにか考えていたんですか?」
「いや、ただ無心で見ていただけだ」
「春さんも難癖ありそうな人ですね。 薄々気づいてはいましたけど」
「そう見えるのか?」
「はい。 ちゃんと見てないとそうは思わないですが」
難癖ありそう……か。 実際無いわけではないのだろうが、それを考察する意味が実際あるのだろうかという問題が出てくるので出来れば考えたくないものだ。 しかし目の前で言われてしまったので考えざるを得ない。
「気が変わりました。 春さんの昔話が聞きたいです」
「言いたくはないんだがな……」
「言いたくないところは省いて良いです。 できれば春さんを知れるだけ知りたいと言う欲求なだけです」
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