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そのまましばらくの間、僕は何をするでもなく桜に魅入っていた。時折吹く風が花弁をさらう。 舞い散る花弁は夜光に当てられ、桜色そのものが形を得て鮮やかに踊る。 花吹雪の中で、ベンチに座る僕の膝の上に花弁が一片ふわりと舞い落ちてきた。 僕はそれをなんとなしに摘まみポケットにねじ込む。そのままふと思い立ち、僕は先日買ったばかりの一眼レフカメラを持ってくることにした。 撮っておきたい気がしたのだ。純粋なる美を保存したい衝動に駆られた。 コーヒーを少し口に含みながら撮影の準備をする。 カシャッ シャッターを1つ切った。このカメラで撮った初めの一枚だ。 液晶に映った桜は、特別な一瞬を時間ごと切り取ったように思えた。
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