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「負けちまったな」
隣に座る相方がポツリと漏らした。桜の木が俺達の座るベンチに日陰を作ってくれている。俺はテニスシューズを脱ぎ捨て、ラケットバッグを抱きかかえたまま呆然としていた。
「また負けちまったんだよな」
反応のない俺に構わず相方は言葉を続けた。俺も流石に「ああ」といったような、返事とも呻きともつかぬ声を返した。
「あんなに練習したのにな」
「そうだな」
「俺が4-4の大事な場面のデュースでダブルフォルトなんてしたから」
「よせよ。俺だってその後しょうもないチャンスボールを決めきれなかっただろ。ダブルスなんだしお互い様だって」
試合内容を反省する気にはまだなれなかった。俺たちが弱く、向こうが強かった。今はそれだけで十分だ。
「あとちょっとだったのによ」
確かに接戦だった。でも負けは負けだ。
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