キツツキ

2/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「負けちまったな」 隣に座る相方がポツリと漏らした。桜の木が俺達の座るベンチに日陰を作ってくれている。俺はテニスシューズを脱ぎ捨て、ラケットバッグを抱きかかえたまま呆然としていた。 「また負けちまったんだよな」 反応のない俺に構わず相方は言葉を続けた。俺も流石に「ああ」といったような、返事とも呻きともつかぬ声を返した。 「あんなに練習したのにな」 「そうだな」 「俺が4-4の大事な場面のデュースでダブルフォルトなんてしたから」 「よせよ。俺だってその後しょうもないチャンスボールを決めきれなかっただろ。ダブルスなんだしお互い様だって」 試合内容を反省する気にはまだなれなかった。俺たちが弱く、向こうが強かった。今はそれだけで十分だ。 「あとちょっとだったのによ」 確かに接戦だった。でも負けは負けだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!