第1話 紅つばき

20/20
前へ
/105ページ
次へ
【十二】 「あの車です! ありがとうございました」 そう言いながら、女は丁寧に頭を下げた。 頭をすばやく回転させながら… 『変な事を聞くが…以前にこのあたりに来たことは?』 「10年前までは、近くに住んでいたのですが…身内が無くなり10年ぶりに…」 女はまた、深く頭を下げた…。 お辞儀を返しながら、女が車に乗り込むのを見ていた! いや、確認したかったのは中にいた男の方だった! 何の証拠も無いのに…と思いながらも、強い確信が私を突き動かしていた! 胸がざわざわして、呼吸があらくなる! 落ち着きなさい…自身をいましめ社務所に戻り、しまって置いた名刺にある電話番号をゆっくり回しながら、 あの研修に出掛けた日に見掛けた車のナンバーと男の顔が、見事にぴったりと当てはまるのを感じていた! 受話器を置いて…一呼吸して眼を閉じた。 一瞬だけ見た、あの女の子の笑顔が、鮮やかに拡がって行くのを感じていた…。 【完】
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加