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【十二】
「あの車です!
ありがとうございました」
そう言いながら、女は丁寧に頭を下げた。
頭をすばやく回転させながら…
『変な事を聞くが…以前にこのあたりに来たことは?』
「10年前までは、近くに住んでいたのですが…身内が無くなり10年ぶりに…」
女はまた、深く頭を下げた…。
お辞儀を返しながら、女が車に乗り込むのを見ていた!
いや、確認したかったのは中にいた男の方だった!
何の証拠も無いのに…と思いながらも、強い確信が私を突き動かしていた!
胸がざわざわして、呼吸があらくなる!
落ち着きなさい…自身をいましめ社務所に戻り、しまって置いた名刺にある電話番号をゆっくり回しながら、
あの研修に出掛けた日に見掛けた車のナンバーと男の顔が、見事にぴったりと当てはまるのを感じていた!
受話器を置いて…一呼吸して眼を閉じた。
一瞬だけ見た、あの女の子の笑顔が、鮮やかに拡がって行くのを感じていた…。
【完】
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