第1章

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辺りが暗闇に包まれた頃。 少年はこそこそと、粗末な家を出た。 もう慣れた、灯りひとつない闇。その中を小動物のような俊敏さで駆け抜けると、普段ならば闇市の開かれている、大きな通りへ出る。 しかし、案の定、その通りには人っこ一人いない。 ただただ乱暴にとっ散らかされた、売り物だったものがあるばかり。果物を手に取りかじりつきながら、忙しなく辺りを見渡す。 そうして3つばかり食べて、少年は口元を腕で拭う。 改めて見た光景は異様をきわめていた。 屋台はほとんど破壊されている。並べられていた商品は、最早どの店先にあったものなのかも分からないほど乱雑に散らかり、食品だろうと地べたを這いつくばっている。 何度見れど、人の影はおろか、気配すらもない。 まるで、街がまるごと拐われたかのような。 しばらく通りを眺めた後、少年は、倒壊した屋台だった物の中から、日除けに使えそうな布を探す。まだ気温も低いから、ここにある食糧だけでもしばらくは生きていけるだろう。日除けを補強して、一旦家に帰るのだ。―母が帰ってくるかもしれないから。 そして食糧がもつかぎり、母を待とう。 食糧が底をついたら? そのときは、ここを発つしかないだろう。行くあてなどない。けれど、ただじっとここで死を待つよりは、よほどいい気がした。 そのために必要なのは服だ。日中動けないままでは、他の街にたどり着く望みはまずないだろう。たどり着いた街に既にコミュニティがあり、入る余地がない可能性も十分にある。命のもつかぎり動き続ける。その覚悟と準備が必要だろう。 その次の晩。 少年は生まれて初めて、腹が満たされるまで食べ続けた。
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