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タイムカードを通した遠藤は、憂鬱な表情で自分の席についた。
片付けるべき書類は山のように残っている。その量を想像するだけで、気分を落とすのには十分に事足りた。
「ふぅ……」
思わず、ため息が漏れる。それに気付いた彼女は、先ほどのように頬をぺちり――としようとしたところで、頭頂をばしりと叩かれて動作を中断した。
「痛っ……」
「おっはよー、今日も朝から浮かない顔して。〝ため息ひとつで幸せがひとつ逃げる〟……でしょ?」
突然遠藤をぶっ叩いた犯人は、呑気な声で挨拶をしながら遠藤の隣席に着いた。
短い茶髪に片ピアス、手には人相の悪いオヤジの顔がロゴマークとして大きく描かれた缶コーヒーが握られ、薬指には銀のリングが光る。
地味な遠藤と並ぶには、どうにも不釣合なスタイリッシュ美女だ。
「痛いよマキ……あ、おはよ。そっちは逆に随分楽しそうだね」
「むふふぅ、そおー? ま、〝さくばんは おたのしみでしたね〟ってところかなーっ」
「もー、朝っぱらからやらしいなぁ……」
ニヤリと笑うマキを見て、遠藤は叩かれた衝撃でまたもずり落ちた眼鏡を直しつつ、やれやれと呆れ顔を浮かべた。
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