天秤は平衡を保つ

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彼女の本名は真木 真由(さなぎ まゆ)。マキというのは苗字から取った彼女の愛称だ。遠藤との仲は学生時代から続くもので、内気な遠藤が心を許す、数少ない友達の一人だった。 「いやぁ、ゴメンゴメン。ま、紡も早く幸せを掴み取りなさいよっ!」 「なれるもんならとっくになってますよーだ」 といっても、〝マキ〟と呼べる期間はもうさほど残されていないのかも知れない。彼女は現在婚約中で、パートナーの男性と同棲中なのだ。結婚して苗字が変わってしまえば〝マキ〟という愛称はふさわしくないだろう。 「紡だって素材はいいんだから、磨けば光ると思うんだけどなー」 「無理無理、私おっちょこちょいだし不幸体質だし。誰も私になんか近寄りたがらないよぉ……」 「それも男によっては萌えポイントなのだよ遠藤氏。カワユスですなぁー、このこのっ!」 マキは見た目に反し、俗にいうオタクと呼ばれる人種だ。それもかなりの重度である。 遠藤もややそっち寄り《オタクサイド》の人間ではあるが、マキはそれ以上である。遠藤は、これほど色々な意味で残念に感じる女性を他に知らなかった。 「手始めに髪型から変えてみるとかどう? 〝うちゅうの ほうそくが みだれる!〟かも知れないよ?」 「マキ、私だからいいけど……それ、誰にでも通じるわけじゃないからね? 傍目から見たら意味不明の会話だからね?」 無論、ここまでの会話は小声で、それもきちんと手を動かし始めながら続けている。流石に何もせず大声でこのように話し続けていたら、いくら温厚な部長でもいつ(いとま)を叩きつけてくるかわかったものではない。 幸い、お喋りを咎める者は周りにいなかった。それも含め、これは遠藤の日常風景であった。
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