紅の鼻緒~牡丹灯籠~

3/27
前へ
/27ページ
次へ
 時は明治も終わりの頃。  風雅な日本家屋の広く静まり返った屋敷の離れでは、女が一人、人形のように青白い顔を布団から覗かせていた。 「露子お嬢様、お薬のお時間でございます」    初老の女が、襖(ふすま)を開けると静かに女の横に座り、その体を起こした。 「ありがとう。おヨネ。でも、私、薬なんて飲みたくないの…。あの人に会えないなら…このまま儚くなってしまいたい…」    青白い顔を悲痛に歪め、露子はその黒目がちな瞳いっぱいに涙を浮かべた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加