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時は明治も終わりの頃。
風雅な日本家屋の広く静まり返った屋敷の離れでは、女が一人、人形のように青白い顔を布団から覗かせていた。
「露子お嬢様、お薬のお時間でございます」
初老の女が、襖(ふすま)を開けると静かに女の横に座り、その体を起こした。
「ありがとう。おヨネ。でも、私、薬なんて飲みたくないの…。あの人に会えないなら…このまま儚くなってしまいたい…」
青白い顔を悲痛に歪め、露子はその黒目がちな瞳いっぱいに涙を浮かべた。
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