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「久美ちゃん、このレッスン、パスします
ちょっと違いました」
1時間のレッスンの後、久美ちゃんがキッパリと言い放った。
確かに珍しいレッスンだった。
インストラクターの指示は一切なく、とにかく振りを真似ながらひたすら踊る。
完全な自己陶酔の世界だ。
「ダンスの好きな人には堪らないレッスンだよね」
「はい。でも久美ちゃんには合いませんでした」
(そうか…私はどうしよう)
アイツはどうするんだろう?
……?
スタジオの方から声が聞こえてくる。
壁際から覗くと、スタジオの前にある、人気(ひとけ)の無いストレッチマットに誰かいる。
聞き覚えのある声だった。
間違えるはずはない。
好きな人の声。
そして、
もうひとり。
今しがたレッスンを終えたインストラクターの声。
気になって更に覗き込むと、マットで互いにストレッチをする姿があった。
「児島さん、身体堅すぎ~」
インストラクターがアイツの背中に寄りかかり、柔軟体操のサポートをしていた。
彼女の仕事とはいえ、
気持ちは穏やかではない。
久美ちゃんが何か話しているが、全く上の空だった。
親しげな二人の姿に、ショックを受け呆然とする。
…だから、恋は苦手。
嫉妬してる。
持て余しそうな気持ちにただ揺さ振られていた。
…恋はやっぱり
苦手だ。
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