溢れ出る嫌悪

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それは極度の緊張からだ。当然だ。通常ではあり得ない景色、それを目の当たりにしてなお、自分はその場に踏みとどまることを選択したのだ。看護士と言う職業からの責任感なら、それは賞賛されるべき行為だ。 「怖い・・・」 まりこと別れた時こそ走っていたが、まりこの姿が見えなくなると、だんだんと恐怖が大きくなっていく。いつしか歩き、その歩幅は小さくなっていた。 「誰かいませんか?」 呼びかけてみた。 「・・・」 返事はない。さっきまであれだけ鳴っていたナースコールもいつしか止んでいた。 「誰かいませんか?」 それでも繰り返した。人の気配が病院から一切消えていた。 正しくは人がいなくなった訳ではない。さっき見た他の看護士たちのように、何人かの患者は見かけた。けれども、人のそれとは違う何か、それを出しているだけ。つまりは、何かに感染した状態とでも言うのだろうか。だから、会話もままならなかった。 彼女が探しているのは、そうではない患者だ。でも、どこにもいない。 「誰かいませんか?」 自分の無力さを感じた。出来るのは呼びかけだけ。それも誰もいない。本当にこれが意味あるのか、疑問を抱えずにはいられなかった。
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