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何人もの、人ではない人。よくある映画のように襲って来たりはしないからまだいいが、それでも薄気味さは残る。
「ひっ!」
こんな情けない声を何度もあげながら、やっと岩倉の元にたどり着いた。
「岩倉さん、大丈夫?」
四人部屋の入り口側の右側、そこに岩倉は寝ていた。痩せこけた老人だ。髪の毛には、とうの昔にさようならを告げられていた。
「あ、看護婦さん。やっと来てくれた・・・」
彼女を見るなり、岩倉はやや涙ぐんでいた。
「ごめんなさい。今、大変なことになってて・・・」
「大変なことってなんだい?」
「あ、ごめんなさい。岩倉さんには関係ないことだったわ」
彼女は自分の発言を反省した。今起きている状況を、岩倉に告げたところでどうにかなるわけではない。むしろ不安を募らせる。それだけだ。
「それよりどこが悪いの?」
「頭の後ろの方が痛くてよー」
「?」
不思議だった。岩倉は交通事故で足を骨折してここにいる。頭が痛いとはどういう事だ。
「本当に頭なの?」
そう言って痛い場所を指差した。
「ここ?」
見てみるがどこもおかしくなっていない。
「ここらへん?」
「あ、そこも・・・」
「ここは?」
「そこも痛い」
なんとなくだが、痛みの場所が広がってる。そんな気がしてならない。
「痛っ」
岩倉が声をあげた。そして、ついに岩倉も。定まらない視点。
「岩倉さん?」
遅かった。もう、岩倉も向こう側の住人だ。
そんな岩倉から音がした。
カナカナカナ。
「え?!」
なぜ岩倉からこんな音がするのか理解できない。
それと食い破る音。耳垢がこぼれた。そして、次の瞬間虫が這い出てきた。
ニヤリ・・・
虫が看護士を嘲笑った。
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