御守り

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 少女が桜の前に立っていた。  何事かを呟いては瞳を輝かせたり、顔を青ざめさせたりしていた。  彼女はこれといった特色もない公立高校の新入生だった。  春になると、時折噂を聞きつけた人間がやってくる。  ――広場に立つ桜の木は、願いを叶えてくれる。  もちろん、そんな馬鹿げた話を鵜呑みにする人間はいない。  来る人間すべての願いを実現させていたら、桜なんて過労で枯れてしまう。  彼女も同じだ。  根も葉もないはずの噂を話半分に聞いて、ふと思い立ったからやってきたのだろう。  願いを叶える桜の花びらを、御守りにでもしようと。  ただ気になったのは、ここ数年はそんな与太話も相手にされなくなったのか、来客が少なかったということだ。  少し興味が湧いたので、風に揺られながら彼女に近づいた。 『願いはありますか?』
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