御守り

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 入学式が終わった。  新入生は今後一年の間、学び舎となる教室へと誘導された。  彼女は妙にそわそわした様子で席についていたが、それが異常に映るということはなかった。  ほとんどの人間が初対面の教室では、めったに言葉が飛び交わない。  誰もが皆、新しい環境への不安と期待とがないまぜになった、絵具を中途半端に混ぜたような気色の悪い感情を抱えていた。  やがてプリントやらなにやらを運んできた担任の登場で、喉を締め付けるような沈黙は過ぎ去った。  しかし彼女は、スカートのポケットを強く握ったままだった。
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