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第21話 そして春
この冬は例年にも増して寒かったけれど、幸いながら積雪は少なくて山仕事は捗った。
そして4月も半ばになり、ようやく桜のつぼみも膨らみ春がやって来た。俺は河原に座って、日差しが身も心も癒してくれるような、待ちに待った太陽の温かさを感じていた。
この半年間余りの体の緊張がほぐれるような感覚。太陽ってやっぱり有り難い存在だなとつくづく思った。
渡瀬さんには冬にやるべき森の仕事を一通り教えてもらったけれど、それはあくまで基本編みたいなもの。これから何年もかけて自分自身で経験を積んで工夫してやっていく事が大事だ。
春以降もまた違う山仕事が始まる。特にやるべき事は植林。伐採するだけじゃなく森を豊かにする為に、部分的であるけれど広葉樹を植えていく。木の実が成る樹木。そして森の土を豊かにしてくれる落葉樹を増やしていく。
そして生きる為に食料調達も重要な仕事だし、春に採れる山菜類や食べ方もこれまた色々教えてもらった。
それと木彫り。2週間に1つぐらいの割合で作った。まだまだ自分の思い通りの物は作れないけれど、それなりに形にもなってきていると思うし、渡瀬さんも感心するぐらいの物が作れてはいる。
もう少し暖かくなると、町の方でフリーマーケットや手作り市が開催されるのが待ち遠しい。どれぐらい評価されるか?
春になりウキウキしている自分がいた。
でも金銭的には決して楽ではないし、当面の収入の部分でもまったく希望はないんだけどね。しかしなんとかなるだろう。この冬を乗り越えた体力と精神力。これを信じるしかないし、またどこかで行き詰まってしまったら、その時は逃げずにぶち当たってみて、それで砕けるならその時なのだろう。
クマに起こされたあの日以来、俺は違った景色の中で生きているのかも知れないし、すっかり俗世間から離れてしまった。しかしこれが俺の人生だと納得するというか、まるでなにかに突き動かされているかのように、今はただこの流れに身を委ねている。
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