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鬼の豪快な笑い声が響き渡る。
「どうした、ボウズ、顔が真っ青だぜ!」
当然だ。目の前の敵は強大過ぎ、一心同体だったはずの裾踏姫は今や遠くに感じられる。
しかし、やはりその声だけは明瞭に耳に届く。
「退いては駄目よ。いえ、私が退かせない。理想郷結界は使わせない」
(無理だ……出来っこねえ……)
鬼の丸太のような太い腕に対し、薙刀を握る腕は余りに細い。
「退かない限り、私は命を懸けて裾を踏む」
(それが……何だっていうんだ……ざけんじゃねえ)
実力の差が余りに大きい敵に対しては、舞踏を体得しているかしていないかは些細な違いでしかない。
「忌むべき泥の上、この世と冥府の境界、生と死の狭間にあって、貴方は腐泥より穢れた裾踏姫を信じた。ならば、己を信じることはそれより容易いはず。貴方なら出来る……必ず」
鬼がすっと真顔になり、剣を構え直す。
「奇遇だな……その言葉、そっくりそのまま千年前に夕霧の口から聞いたぜ。あの時のお前は強かった。油断はしねえ。操る手駒が鼻ったれのガキとはいえ、全力で掛からせてもらう」
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