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(どいつもこいつも勝手にほざきやがって)
真紀のために死ぬ覚悟は出来ている。
だが、それは手を尽くし、死力を尽くし、果てた場合だ。
理想郷結界という最高の盾がありながら、それを使用しないのは納得がいかない。
(そんな死は、納得出来ねえ!)
俺は脛まで沈んだ足を泥中から引き抜き、改めて表泥を踏みしめたブーツが腐泥門を波立たせる。
(真紀らしくねえ……くそ)
理不尽さに対する怒りが、俺に薙刀を構えさせる。
(だが……俺はガキじゃねえからよ……駄々はこねねえ)
納得のいく死などこの世に存在せず、死はいつだって理不尽なもの、そう割り切るしかない。
俺はいつも以上に深く空気を吸い込み、そして、血の臭いを含んだ息を吐き出す。
全ての力を己の両足へ。
反発力によって地雷が爆発したかのような泥飛沫が腐泥門から上がり、俺は一気に前へ出る。
迎えた両角鬼の突きは知覚の速度を超えており、頬からほとばしる熱い液体と、横目に捉えた剣の血抜きの溝により、俺は己が剣をかわしたのだと知る。
剣に映る俺の顔は真紅に染まり、眼光によって目の位置だけがはっきりと分かる。
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