5337人が本棚に入れています
本棚に追加
「足止めで構わない。今回は報酬を与えよう。裾踏姫、遠野優衣を与える。この時代に留まるため、百過刀に血を吸わせ続けるのは苦痛だろう?裾踏姫がいれば、人を殺さなくても済む。平穏な生活が欲しくないか?」
「…………」
「言っておくが、彼女に無理強いするわけではない。遠野優衣は救いを必要としている。お前と同じようにな。僕が思うに、互いに必要な存在となるはずだ」
「……分かった」
「頼む」
それを最後に総一郎の声は聞こえなくなり、暗闇にわずかな光が射し込む。
開かずの間が開いたのだ。
俺はその隙間に手を当て、さらに押し開く。
そして、外へ一歩踏み出したとたん、目に見えぬ凄まじい力が俺を圧する。
俺は腕を胸の前で重ね、歯を食い縛り、必死に地を踏み締める。
見上げた空には地を覆う半球状の淡い幕。
理想郷結界が俺を外へ弾き出そうとしているのだ。
俺は必死に抗うが、留まりきれない。
足下では軍靴の底が白煙を上げ、大通りに沿って長い二本の線を残していく。
最初のコメントを投稿しよう!