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「クッ!」
理想郷結界は俺を鬼として認識したのだ。
肉体は人間でも、人の心を失いつつある俺は鬼なのだろう。
両足のみならず四肢で地を捉えるが、体は結界外へ向けていよいよ加速する。
点滅して用をなさなくなった信号機の真下に達した時、横合いから別の衝撃が加わる。
車だ。
真横に弾き飛ばされるその一瞬、吹きさらしの車上から唖然とした顔でこちらを見上げる三人の姿が見えた。
(何?)
百過刀の呪いにより百年の時を飛ばされ続けてきた俺にとって、そのうちの一人はひどく懐かしい身なりをしていた。
袖に青い波の羽織。
幕府の新撰組。
俺が最も長く留まった時代。
そして、最も心が揺さぶられた時代。
地に叩き付けられた俺の耳に、女の喧しい声が飛び込んで来る。
「渋滞を抜けて道が空いたと思ったら次は事故か!?だからさっさと車を乗り捨てるべきだった!もう望月達は戦ってるはずだ!きっと私を必要としている!チンタラしている場合じゃない!」
体の痛みより不快な声。
膝を起こして車上を見ると、車の後部で髪の短い女が騒ぎ立てていた。
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