第60話 千年の宿怨

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先駆者が限界を設ければ、後に続く者はそこで止まる。先駆者は己に限界を設けてはならないのだ。 カズマにとって、目の前の鬼が限界であってはならない。 また、恋するゆえに、妥協してはならない。 それが私に限界を設けさせるのならば、恋など捨てる。 今までそうして来たように。 (例え……ここで果てたとしても……) 私達が限界に挑んだことは姫達に記憶される。 それが先駆者の姿勢だ。 私はブーツの裏でアスファルトを擦り、重心を落とす。 舞踏の構え。 私はふと唇に笑みを浮かべる。 銭湯での石鹸を利用した特訓が思い返されたのだ。 (何だか……懐かしい) 後続は確実に育っている。 少し難はあるが、夏奈子は驚異的なスピードで舞踏をマスターした。 足元に青い裾がある限り、彼女は戦い続けるだろう。 浴衣の主のために。 (望月拓郎……か) 私は唇から笑みを消す。 抜けている所はあるが、切れ者には違いない。 今のところ、私の秘密に気付いているのは彼だけだ。 彼は気付き、それでもなお、なに食わぬ顔で私に接している。
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