第60話 千年の宿怨

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【カズマの視点】 俺と真紀は理想郷結界の薄い壁を通し、外をうかがう。 結界の外はオフィス街であり、血がアスファルトを濡らし、異形の足跡が点々と続いている。 チッ 唇から漏れた舌打ちは転生人に対してのものであった。 (結界内で大人しくしてりゃいいものを) 俺は肩を叩かれ、薙刀を両手に握り直す。 真紀による『進め』の合図だ。 (だが、まあ……) 俺は思い直す。 結界内をうろつくT市の刺客は鬼以上に厄介な奴らだ。 どこにいても変わらないと言えば変わらない。 「なにビビってるのよ?さっさと行きなさい。総一郎にとって今の私達は必要な人材、彼の操る鬼に集中攻撃される可能性は低い」 「それは総一郎を信じた場合だろが」 「ウダウダ言ってないで結界から出なさいよ!あんたが人間の女と同様、鬼女に手を出していなければ、いつぞやの様に私達を特定した待ち伏せなんてないわよ!なにあれ『カズマさぁぁん』って!」 「つまんねえ冗談を」 俺は厚いブーツの裏で腐泥門を蹴り、前傾姿勢となって結界を突破する。 俺の後ろではコートの裾がはためき、それに真紀が続く。
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