第60話 千年の宿怨

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そして、五歩も行かないうちに、太鼓を打ち鳴らすような「真紀ィイイイイイ!」という野太い声がオフィス街に響き渡る。 俺は顔をしかめて振り返る。 「お前の方じゃねえかよ……このアバズレ女が」 「知らないわよ!」 そして、路肩に放置された貨物輸送車の扉をぶち破り、両刃の大剣を手にした巨漢が現れる。 男は剥製のような毛皮をまとっており、獣の頭を太い指で掴むと引きちぎり、だらりと垂れ下がった毛皮からゾッとするほど厚く逞しい体躯が露になる。 「お前を見ていきなり脱ぎやがった。真紀、どんだけ尻軽なんだよ」 「よくこんな時に冗談が言えるわね!?」 「まったくだ」 俺は薙刀を構える。 目の前の鬼は両角鬼だ。 頭髪は燃えるように逆立ち、生え際の額には両角の根元だけが残されている。 名のもとになった角は足下にあるのだが、今は黒色方形の下駄はなく、裸足であった。 両角鬼は引きちぎった獣の頭を投げ捨て、薄く笑う。 「もう、こんなもんはいらねえ。これがあれば十分だ」 鬼は大剣を水平にし、眼前に据える。
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