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背は俺の倍ほど、体重に関しては数倍だろう。
素早さも人間を超越している。
俺と望月、T市の手練れが二人、計四人で掛かり、瀕死の重傷を負ったのはこちらであった。
間違いなく最強の鬼である。
俺は肩幅大の泥の中で足の位置を定め、唇だけの笑みを鬼に返す。
「もうすでに一戦やらかしたらしいな?足の甲から血が出てるぜ。慌てて逃げ出し、自慢の角を履き忘れたか?」
「言っただろう。剣があれば十分だとな。どうせそこにいる夕霧に折られた角だ。千年前はあんな物に頼らなかった」
「夕霧夕霧とうるせえな。遥か昔におっ死んだ姫だろ。そんなもんで付きまとわれたら真紀も俺も迷惑だ」
水平に構えた剣の向こう側で、鬼の目がスッと細くなる。
「本当にそう思っているのか?今も、お前の知る女と、後ろにいる女が同一の者だと?」
「なに……」
「瞳を見てみろ。この俺を見つめる女の瞳を。誰だ?なあ、その女は誰だ?きっとてめえは悲鳴を上げるぜ」
俺は振り向きたい衝動を堪え、獣のように鼻の根にシワを寄せる。
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