5338人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
裾踏姫を従える者が心掛ける基本は、絶対に後ろを振り返らないことだ。
初歩の初歩に立ち返らなければならない自分に腹が立つ。
「カズマ、惑わされないで」
後ろから聞こえた真紀の声は、いつもと変わらぬ声音であった。
「当たり前だ」
俺は薙刀の構えを頭上へ変える。
鬼はそれに応えて剣の位置を腰の脇へ変えるが、その視線はなおも俺の体を越えて後ろへと注がれていた。
「この千年、俺は大勢の姫を見てきた。呪術は心を介して継がれていく。想いもだ。これはお前に言うまでもねえな。釈迦に説法だ」
「……そうね」
俺の後ろから素っ気ない声が返る。
「だかな、同じ瞳、同じ眼差までは継がれねえ。継いだ想いだけで変わるもんじゃねえ。生をうけてから、そいつが何を見て、何を考え、何を犠牲にし、何を選んできたかで変わる。それこそ千差万別だ。だが、ここに同じ眼差しがある。その凛とした眼差しは一度見たら忘れられねえ」
「…………」
「夕霧よ」
鬼はあくまで夕霧として真紀に話し掛ける。
最初のコメントを投稿しよう!