第60話 千年の宿怨

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裾踏姫を従える者が心掛ける基本は、絶対に後ろを振り返らないことだ。 初歩の初歩に立ち返らなければならない自分に腹が立つ。 「カズマ、惑わされないで」 後ろから聞こえた真紀の声は、いつもと変わらぬ声音であった。 「当たり前だ」 俺は薙刀の構えを頭上へ変える。 鬼はそれに応えて剣の位置を腰の脇へ変えるが、その視線はなおも俺の体を越えて後ろへと注がれていた。 「この千年、俺は大勢の姫を見てきた。呪術は心を介して継がれていく。想いもだ。これはお前に言うまでもねえな。釈迦に説法だ」 「……そうね」 俺の後ろから素っ気ない声が返る。 「だかな、同じ瞳、同じ眼差までは継がれねえ。継いだ想いだけで変わるもんじゃねえ。生をうけてから、そいつが何を見て、何を考え、何を犠牲にし、何を選んできたかで変わる。それこそ千差万別だ。だが、ここに同じ眼差しがある。その凛とした眼差しは一度見たら忘れられねえ」 「…………」 「夕霧よ」 鬼はあくまで夕霧として真紀に話し掛ける。
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