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俺はふっと息を吐き、泥を跳ね上げて横に駆ける。
これ以上、前に出ると理想郷結界から離れてしまう。あくまで理想郷結界に沿って戦わなければならない。
鬼は俺を追い、スピードと歩幅の違いからすぐに追い付き、走る勢いのまま剣を横に薙ぐ。
鬼の腕は太さは俺の太股ほどもあり、それだけで風圧を生み、剣が上げる唸りはもはや轟音であった。
俺は進行方向に上体を倒し、剣は俺の肩の上を通過する。
その唸りは空気を振るわせ、衝撃となって肩を打ち、ジンと痺れる。
(とんでもねえな!)
俺は腰を回し、その回転を両足に伝える。
ブーツが泥に流れを生み、腐泥門が渦を巻く。
下半身の回転は否応なく上体の回転へとつながり、上体は肩を振ってそれに勢いを付ける。
俺は視界を過ぎ行く景色の中に両角鬼を捉え、手にした薙刀を振り抜く。
足元の渦は真紀の呪縛によって瞬時に消され、全ての力は刃に託される。
渾身の一撃。
しかし、火花を散らした剣も、太い腕も、微動だにしなかった。
(だろうな!)
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