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これは威嚇であった。渾身の攻撃が威嚇にしかならない、それは情けないことだったが、俺が本当に頼りにしているのは理想郷結界である。通じなかったとしても苦ではない。
俺は足のバネに蓄えた力を解放して腐泥門を蹴り、結界への後退を試みる。
しかし、勢いよく跳ね上がったのは泥飛沫だけであり、俺の体は依然そこにあった。
一旦浮いた体が地に呪縛されたのだ。
真紀による裾踏留めの呪術。
(真ッ!?)
俺の頭上に閃光が煌めく。
ただでさえ長身の鬼が大上段から大剣を振り下ろしたのだ。
とっさに掲げた薙刀。
マグマが弾けたかのような多量の火花が散り、衝撃は全身の骨を軋ませ、限界まで膨張した肉の筋を引きちぎり、足は打たれた杭の様に脛まで泥に沈み込む。
「ガァ!」
俺は血の臭いを含んだ肺の中の空気を全て吐き出し、両角鬼は刃を合わせたまま「面白れえ。受け止めやがったか」と笑う。
「だがな、もっと面白れえのは夕霧、お前だ」
両角鬼はそう言い、ザッと刃に刃を滑らし、剣を引く。
「聞かせろ。夕霧、何の真似だ?」
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