第60話 千年の宿怨

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真紀の静かな言葉は、問いを発した鬼にではなく、俺に向けられる。 「カズマ……後退はないわ。理想郷結界は使わない」 俺は信じられぬ思いでその言葉を聞く。 真紀ならば、結界の必要性は十分に理解しているはずだ。 俺は振り向く代わりに奥歯をガッと鳴らし、苛立ちを表す。 しかし、真紀の答えは変わらず、さらに無情であった。 「勝てないまでも、負けることはない……私が選んだ男がそれでは困るの。ヤーヌスも仕留められなかった。そんな男が石倉一派の筆頭では困る。あんたには敵に勝ち続けてもらわないとならない。だから、退いては駄目。より強い敵に勝ってこそ、あんたは変われる」 両角鬼の一撃は稲妻を喰らうに等しい。 こちらは複数人、いや、十数人で当たって然るべき敵だ。 「今は……勘弁だ」 「失望させないで」 真紀は今も後ろにいるのか、そう感じさせる程にその声は遠くから聞こえた気がした。 それは俺の心の問題であり、声の明瞭さからして真紀が後ろにいることは間違いない。 「このままでは見限るしかない。また探さなければならない……させないで、この私に」
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