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水野の意外な反応に僕は少し驚いた。
『・・違うのか?』
『そんな訳ないわ、人形かなんかに決まってる。誘拐犯の趣味じゃないの?』
趣味?そうだとしたら、かなりの悪趣味だ。だけど確かに死体なんて非現実的なものがそこら辺にあるはずがない。
やはり、人形なのだろうか・・・?
『そんなことより出口知らない?ドアは開かないし、窓もないのよね』
奇妙なことに周りを見回すと、水野の言うとおり窓一つなかった。
しかも、コンクリートの壁に覆われたせいか、息苦しさを感じる。
この場所は一体何だ・・・?
『ここが何処かは分からないが、可能性としてはどこかの街の中かもしれんな』
いつの間にそこに居たのだろうか。真っ白な白衣を身に纏ったそいつは、階段を足音一つ立てずに静かに降りてきた。
『あんた、誰だ?』
『ん?私か?私は牛島圭吾。拉致されてここに連れてこられた。さっきの会話を聞いていると、どうやら君達も同じらしいな。ああ、ちなみに年は十八だ』
そう名乗る彼は拉致されたかもしれないというのに何故かとても落ち着いていた。
普通、こういう状況だと取り乱すのが当然なのに彼は恐ろしい程に冷静沈着だった。まあ、僕達もあまり変わらないが・・・。
『ところで、あの死体は何だ?』
牛島は例の人形を指差した。その表情は少し険しい。
『死体?あれは人形でしょ?』
『何を言ってるんだ?あれは本物の死体だ。科学者の私が言うんだから間違いない』
死体、その言葉を聞いて、この場の空気が一気に変わった。
『・・・本当に死体なのか?』
『ああ、間違いなくな』
牛島はそう言って、死体の側に寄ると、探りを始めた。
『年は見たところ二十代前半、名前不明。性別は男、出血や外傷が見られないところを見ると死因は毒殺だと思われる』
『毒殺?どうしてそんなこと分かるのよ?』
『この男の手や顔を見てみろ。皮膚のあちこちに紫の模様が出ているだろう?こういう模様は毒を飲んだときに出来るものだ。アーモンドのような匂いが充満している、恐らく青酸系の毒物だろう』
牛島の冷静な対応に僕は思わず感心した。科学者だからなのかどうかは知らないが、人体に関しては一流のようだ。
『・・・』
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