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変-カワル-
そんなアタシ達の関係に少し変化が現れたのは、あの事があってからだ。
その日も、いつもの如くアタシは兄に虐められていた。
でもこの日はとうとう耐えられなくて、心の中で強く願った「助けて」と。
すると次の瞬間、アタシにとっては瞼をギュッと瞑って祈っただけの短い時間だ。
兄の呻き声に瞼を開くと、アタシは硬く大きなまな板を手に兄を見下ろしていた。
なぜこんな状況になっているのか訳が解らなかった。
けれど兄の驚き怯えたような表情から、アタシがまな板で兄を叩きつけたのであろう事はすぐに理解できた。
だとすると、瞼を瞑ったほんの一瞬の内に台所までまな板を取りに行ったことになる。
でも本当に全く身に憶えがない。
これがいわゆる交代人格と呼ばれるもので(他の人格が表に出ている時は、主人格にその間の記憶は無いといわれている)
本当にJの仕業なのかはわからない。
でもアタシなら勝手知ったる我が家だ、まな板なんかじゃなく包丁を選んだだろう、それ程に兄を憎んでいたから。
それに実際に、アタシはその時「どうせなら包丁だったら良かったのに」とJに言った覚えがある。
それからだ、冗談ぽくだがJが「代わってやろうか?」と言ってくるようになったのは。
でも以来アタシは、あの時の様に助けを求めることはしなくなった。
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