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「…あの、」
気がついたら、男は少女に声をかけていた。
「きみ、高校生?
中学生?
こんな時間に、何してるの」
少女は頬杖をついたまま、男にチラッと顔を向ける。
「何もしてない」
答えた少女の声は、リンと澄んだ、それでいて可愛らしい声。
そのくせ、口調はどこかぶっきらぼう。
「か、帰らなきゃ。
家の人、心配してるよ」
少女はまた、男をチラッと見た。
「あなたは?」
聞かれて、男は返答に詰まる。
うなだれる。
汗ばんだ手のひらの中には、切符が一枚。
「この先に、家なんてない。
そんな切符で、どこ行くつもり」
切符を買うところを見られていたのだろうか。
確かに、少女の言うとおりだった。
電車が次に止まるのは、某大手工場の正門前。
そこが終着駅。
先に公園はあるが、多分、すでに閉園している。
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