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「いや、そんなことはないよ」
男は、思い違いに気がついた。
「だってさっきから、何人もの人が電車に乗ってる。
ぼくを置いて、家に帰るため」
「その人たち、生きてるのかしら」
「えっ」
男は驚いて少女を見た。
少女は体を起こして、静かな線路を見ている。
それから、すーっと視線を上げる。
遠くから電車の音が聞こえ始めた。
ドクン。
ドクン。
胸が早鐘を打ち始める。
「時刻表を、よく見てご覧」
少女の声は、最初よりはいくらか柔らかくなった。
…そんな気がしただけかもしれない。
「電車は八時台に二本。
九時台に一本。
そして、今から来るのが」
両足でホームを踏みしめ、拳を固く握り、男は少女を振り向いている。
少女は、正面の線路を見つめている。
電車はどんどん近づいてくる。
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