001.星

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「あの。 さっきから、何を見てるの」 男は聞いた。 少女の瞳が、恭助を見た。 「星」 少女は言う。 星? 星なんて、もう少し先からじゃなきゃ見えやしない。 男は立ち上がって、フラフラと歩き出した。 ホームの黄線を越えて、際まで進む。 見上げると、よく晴れた空に星が瞬いていた。 今日が新月だったことを、ふと思い出した。 「…ぼくの田舎では、 もっと、たくさんの星が見えた」 話は、噛み合わないかもしれない。 相手はつかみどころのない少女。 それでも男は、話し出す。 「今年、七十になる母がいて… 父は癌で、三年前に亡くなって…」 一つ年上の兄が後を継いだので、男は都会へ出てきた。 そして、汗水垂らして働いた。 口下手で、いい女性との出会いもなく、結婚はしていない。 転職を考えることさえなく、何度も何度も契約を更新し続けた。
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