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「あの。
さっきから、何を見てるの」
男は聞いた。
少女の瞳が、恭助を見た。
「星」
少女は言う。
星?
星なんて、もう少し先からじゃなきゃ見えやしない。
男は立ち上がって、フラフラと歩き出した。
ホームの黄線を越えて、際まで進む。
見上げると、よく晴れた空に星が瞬いていた。
今日が新月だったことを、ふと思い出した。
「…ぼくの田舎では、
もっと、たくさんの星が見えた」
話は、噛み合わないかもしれない。
相手はつかみどころのない少女。
それでも男は、話し出す。
「今年、七十になる母がいて…
父は癌で、三年前に亡くなって…」
一つ年上の兄が後を継いだので、男は都会へ出てきた。
そして、汗水垂らして働いた。
口下手で、いい女性との出会いもなく、結婚はしていない。
転職を考えることさえなく、何度も何度も契約を更新し続けた。
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