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或る年の正月。
僕は稜線でうずくまっていた。
前の晩はテントで一人声を殺して大泣きした。
下では誰もが新年を暖かい家や店で、友人や家族と過ごしてるだろうに僕は雪山に一人きりだったから。
尾根は風が強すぎて立てず、這いつくばって進んだ。
2700mくらいだろうか。
小屋まで15mくらい。
空気中の水分をキラキラ輝かせる寒さと西から吹く爆風。
東の谷に落とされそう。
岩陰に隠れて湯を飲む。
ようやく入れた小屋の中は暖房がきいて暖かかった。台風なみの風は終わらない。
僕は結局、山頂を目の前にして引き返した(春に逆尾根から登る)。
北壁登攀の父はこの近くで友を亡くし、自身の足の指全てや踵を失ったはず。
たしか当時、彼は10代だった。
彼は燃えるような若さで生死の狭間を歩き、生き、四年前に八十で大往生した。
下界ではメメントモリ。僕は山に命を投げに行ってるのだろうか。拾い集めに行ってるのだろうか。
わからない。たぶん両方。
先人たちは?たぶん両方。
(春に撮影)
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