第1章

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やがてバスタブは寒天のように固まりなんだか自分を含め高級料理のオードブルのようになった。 これはいかんと焦ったイサクは力をふんぬと入れると、にゅーと少しだけ自身が上昇した。が、力をゆるめるとすとんと落ちる。 もう一度 ぬー すとん ぬぬー すとん よっしゃと気合いをいれて ふぬぬぬー しゅぽんと出たが、勢い余って側頭部をしたたかぶつけ、ぶつけた衝撃で脳がずれた。 文章で書くのは難しいが、体の中に意識や思考がとどまっているというのは単なる思いこみにすぎない。 ぶっちゃけ脳なんてものは薄い膜のような状態でも機能するらしいし脳が考える臓器であること自体も疑うべきだ。実際、脳の味は精巣と同じなわけなんだし。 味が同じということから構成されているものが似ていると考えるのは乱暴だろうか? 乱暴であるか無いかを判断しているのはどこだ? 音楽の刺激的なメロディーラインを股間で聞いたことはないか? 美味しい料理が股間を刺激することだってある。 直接か間接かを問うのなら、脳で直接感じてみるがいいさ。 その瞬間、バスタブの文字列は空中に浮かび、様々な文章を作りだした。 文章が完成するごとにカシン、カシンと分裂し、形を変え別の文章を作り出す。 そのスピードは加速していき、文章も長くなっていく。 長くなる文章は風呂場や部屋という枠をはみだしていき、 風呂場や部屋やアパートというしきりは隔てている理由を失った。 空中に漂う沢山の文章は、おいしいサンドイッチの作り方から宇宙の始まりまで様々な文章を作り出あげる。 沢山の文字列は大量発生する昆虫さながらに街灯、部屋の灯りに群がっていき、 それはやがてすべての灯りという灯りを覆い尽くした。 灯りに張り付いた無数の文字群により、完全な闇が訪れた。 月が綺麗。
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