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街へ入って二日目の朝、シオネコさんが「水を探そう」と提案してきた。塩に汚染されていない大量の水が残っている可能性が高い場所を、知っているって。大災害のとき、政府高官たちのための水を確保するために、政府が市民には秘密で管理している巨大な貯水タンクがあるらしい。
僕は、すぐに賛成したよ。安全な水さえ確保できれば、みんなも少しは余裕ができて、昔みたいに優しい人たちに戻ってくれるかもしれないからね。
この街のどこかにあるという秘密の貯水タンクを見つけるために、僕はシオネコさんの後についていった。
噂の貯水タンクを探しはじめて、三日は経ったろうか。僕は黙々と、先をゆくシオネコさんの後を追った。
塩のせいで交通網がマヒしてしまっているので、以前なら電車で数時間のうちに着いてしまう距離でも、三日歩き続けてまだ目的地には到着しなかった。これだけ移動に時間がかかるのは、僕が道すがらに出会うご遺体の一人ひとりに手を合わせ続けたせいもあると思う。
「あー、疲れた。少し休むわよ」
シオネコさんは自分が疲れたという理由で、途中で頻繁に休憩を入れるようになった。日に日に歩みが遅くなる僕を、気遣ってくれているのかな。
でもね。もしかすると、本当にシオネコさんの方が疲れているんじゃないかって気がしてきてる。
実は昨日、僕は気づいてしまったんだ。シオネコさんのあの長くてふわふわで気持ちいい白い毛が、日を追うごとに抜け落ちていっていることに。たぶん、この街に入る前から。いや、もしかすると、僕と出会った瞬間から、少しずつ抜けていたのかもしれない。
隣で休むシオネコさんの背中は明らかに毛が薄くなって、地肌があらわになってしまっていた。その体は思っていたよりもずっと小さく、やせ細っているように見えた。
ごめんね、もっと早く気づいてあげればよかった。肌も白だし、背景の道まで白だから今まで見過ごしてしまっていたなんていうのは、ひどい言い訳にしかならないよね。本当に、ごめん。
僕は泣きそうになりながら、そっとシオネコさんの背中をなでた。
ずる、と、シオネコさんの白くてふわふわの毛が、僕の指にからめとられて大量に抜け落ちる。抜けないように気をつけていたつもりだったのに……ごめん、ごめん、ごめん……!
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