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「私の毛はね、体の中に入ってしまった塩分を吸い上げて、外に捨てるためのものなの。抜けて正解なのよ。だから、心配しなくても大丈夫よ」
僕はきっと、涙でぐしゃぐしゃのひどい顔をしていたに違いない。水分がもったいないじゃないの、と言って、シオネコさんが僕の涙をぺろりとなめた。
ありえないに決まっている嘘までついて、歩みの遅い僕を気遣ってくれるシオネコさん。ごめんね、ごめんね。そして、ありがとう。
僕はたまらなくなって、シオネコさんの小さな身体を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。
「ちょっと、何なのよもう! 私は大丈夫だって言っているでしょ。気持ち悪いわね」
シオネコさんは迷惑そうに顔をしかめながらも抵抗はせず、黙ってそのまま、僕の腕の中に抱きしめられていた。
「さ、落ち着いたかしら? あと少しでやっと到着よ。そこの角を曲がったら、貯水タンクが隠された建物が見えるはずだから」
僕の涙がおさまるのを待って、シオネコさんは子をあやす母のように優しく言った。
期待と不安を胸に角を曲がると、そこには、大きなビルの壁がそびえ立っていた。
壁はところどころに塩の吹きだまりがあり、地面から伸びたいくつかの塩の氷山が、壁を伝ってよじ登ろうとしてようにも見える。
秘密の貯水タンクが隠されていると思しきビルの壁は、僕がいる場所からは一見すると本当にただの壁で、入り口などは見当たらない。
もしかしたら、入り口は反対側にあるのかな。それともぱっと見ではわからないけど、隠し扉があるのか。そんなことを考えながら、僕は壁に近づいていった。
そして、壁に少し近い距離まできたところで、僕はぱったりと足を止めた。
「え、これって……」
思わず叫び、ぼう然と前方を見つめる。
遠くから見ると、いくつもある氷山の一つのように見えていた「ソレ」。近づいてみると、塩の氷山の中に深く掘られた空洞があり、その中には何者かの手によって塩の塊から彫りだされたと思われる、一体の女神像があった。
心臓がばくばくと耳元で脈を打ち、体がぞくりと熱くなる。気づくと僕は、女神像に向かって駆け出していた。
幼児ほどの背丈に、丸みのあるすらりとした体つき。腰布を風にふわりとなびかせ、片手を胸に、もう片方の手を前に差し出し、微笑を浮かべる女神。柔らかな口元、半目からのぞく慈悲深い眼差し。
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