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醜い怪物は幼くして全てを悟った。
所詮この世は上っ面だけ。
けらけらと笑う、無邪気で残酷な子供達に見下されながら怪物は地面を這う。
床にぶちまけられた水を、ずぶ濡れのまま雑巾で拭きながら、バケツの下に隠れた顔を、怪物はより一層醜く歪ませた。
怒りに? 憎しみに? 悲しみに?
「愚かだなぁ」
張り付けたのは満面の笑み。
見下している筈が、怪物に見下されていようなどと、愚かな子供達は気付かない。
しかし、五人の無邪気で残酷で愚かな子供達は、漏れなく気付く事になる。いや、正確には気付かされるとでも言うべきか。
この日、怪物は生を受けた。
@ @ @ @
古びたロッカーはギイギイと耳障りな音を立ててゆっくりと開いた。それと同時にロッカーの中から倒れ込むように男が地面に転げ落ちる。
口を縛られ、真っ赤な目に涙を浮かべている男は、急に目を指す強い光に思わず目を細めた。
「よう。泣き疲れたかい? 急に静かになったもんだから、てっきりぽっくり逝っちまったかと思ったよ」
にぃ、と白い歯を見せて笑うのは一人の女だった。
薄茶色にセミロングの髪を染め、少し化粧はきつめ、ぱっちりとした目はつりあがっており気の強そうな印象を与える。
身に纏う無数のアクセサリや高価な装いは、全て男が買い与えたものだ。
服の上からでも分かるスレンダーな体つき。派手な印象の強い女だが、間違いなく美人の部類と言える。
しかし、その煌びやかな装いと端麗な容姿とは、その場所はあまりにも不釣り合いだった。
煌々と輝く大きな光源が照らしてはいるが、その『教室』以外は完全な暗闇。壁はあちこち崩れ落ち、床は剥がれ崩れていた。
古びた学校。当然その荒れようから分かるように、とうの昔に廃校となった、忘れ去られた小学校である。
何故か手をつけられずに残された廃墟の、掃除用具入れのロッカーに、男は押し込められていたのだ。
目の前の、美しい女によって。
「安心しなって。殺しゃしないよ」
懐から携帯電話を取りだして、女はキーを押し始めた。操作をしながら女は続けて口を動かす。
「ただ、閉じ込めさせて貰っただけさ。もう帰してやるよ。今、警察をここに呼んでやるから、それまでは辛抱してもらうかね」
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