家族になる

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桂斗はしばらく僕の腕の中でじっとしていてくれた。 いつもならふり払われそうなのに。 虎太郎がいないからって、彼を虎太郎の身代わりにしているのかな。 ぬくもりが欲しくて、ついつい長くそのまま抱きしめていた。 「なぁ、雪兎」 「あ、ごめんね」 「オヤジの事、好きか?」 「もちろん、好きだよ」 「友達じゃないのか?」 「昔も聞かれたな、虎太郎に」 「どういったんだ?」 「違うって言った。その時は本当に恋愛感情だった」 「ふーん」 「桂斗くんにも好きな人ができるよ」 「・・・・・」 桂斗くんは黙って俯いた。もう心の中に決めた人でもいるみたい。 この親子、早熟なところも似ているのか。 「雪兎、スイカの種が口についてる」 すっと手が伸びてきて取ってくれる。置いてあったタオルで拭いてくれた。 「お前、ほんとに大人なのかよ。世話が焼けるな」 「ごめん、歳だけ取ったみたいだね。桂斗くんのほうがずっと大人みたい」 「あんまりいい褒め言葉じゃないな」 「ごめんなさい」 「さっきから謝ってばっかりだ。雪兎は極道の家にいても、まったく極道に染まらないんだな」 「僕は極道にはなれそうにないよ」 「そこがいいんだろうな」 「えっ?」 「そういうところが、オヤジに気に入られてるんだよ」 「そうなのかな?僕は虎太郎のために何にもできなくて、歯がゆいけどね」 「そのままでいいんだよ。バカで世話が焼けるお前が好きなんだろ」 「桂斗くん、酷いよ!」 口をとがらせて抗議すると、桂斗はちょっと目を丸くした。 そして急に笑い出す。 「なに?」 「お前、そんな態度、誰にでもするのか?」 「そうだけど、なんで?」 「オヤジだけにしておけ、狙われるぞ」 「何それ!佐竹さんにも言われたけど、なんでなんだよぉー!」 「佐竹にも言われたのか?」 「そうなんだけど、なんでか桂斗くん教えてよ」 「バーカ。口が裂けても言えるかよ」 「佐竹さんも、よからぬことを考えるからやめろって言うんだよ」 「佐竹が?・・・で、お前その意味も分からないの?」 「うん、どういう意味?」 「ド天然だな。鈍すぎる」 「桂斗くん、ずるい!教えてよ」 「よからぬことをか?」 「うん」 もう夕焼けが始まった。 縁側に座っていた僕の襟首を、ぐっと桂斗は引き寄せた。 桂斗は庭石に上ってゆっくりと顔を近づけた。
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